“いじめをなくす”ことが「不可能」な理由。

昨今の日本は、いじめに対する見方が厳しくなっています。

平成25年度からはいじめ防止対策基本法が施行され、学校では保護者・子ども双方に向けて定期的なアンケートをとり、早期発見・対策に努めています。

その成果なのか、年々いじめの認知数は増加しています。「増加」と聞くと、我が子が安心して学校で過ごせないのではと心配されるかもしれません。しかし、むしろその逆で、今まで見落とされてきたいじめも認知されるようになったと、プラスに受け止めるべきでしょう。

多くの学校では「いじめ0」「いじめ撲滅」などと、いじめを根絶することを目標にしていますが、現実問題として、いじめは無くなっていません

それもそのはず。人間である以上、いじめがなくなることはあり得ません。その理由は、人間という種の本能にありました。

進化の過程で得た、社会的行動

人間は社会的動物である」という、アリストテレスの有名な言葉がありますが、人間は基本的に集団の中で生きる生物です。

それは、個体1つ1つが脆弱だから。1人で生きようともすれば、あっという間にくたばってしまうのがオチです。

ですから、集団を作って協力し合うことで、人間は種の存続を図ってきました。人間にとって、集団の維持というのは自己の生命維持にもつながる、最重要課題なのですね。

集団を維持させるために生まれる「排除」

しかし、個々がそれぞれの利益・欲望のままに行動しては、集団が成り立ちません。

集団を維持するためには、できるだけ集団の中から和を乱す異分子を取り除かなければなりません。人間には、この異分子を排除するはたらきが本能に組み込まれているのです。

そう、それが「いじめ」です。

脳科学から見る、いじめのメカニズム

脳科学者である中野信子さんは、著書「ヒトは『いじめ』をやめられない」の中で、「いじめは種の生存のために脳に組み込まれた『機能』」だと述べています。

実際、ヒトがいじめをしているとき、脳の中ではある脳内物質が分泌されているらしく、これがいじめを助長する原因になっているとのこと。

その1:オキシトシン

オキシトシンは、別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、出産やボディスキンシップなどによって分泌されるホルモン。これが分泌されると、仲間に対する愛情や信頼感が増す効果があります。

しかし、このオキシトシンは多幸感をもたらす一方で、なんと異分子を排除する意識も強めてしまうそうなのです。仲が良い同士ほどいじめに発展しやすいのは、このオキシトシンにコントロールされてしまっているのが原因だとか。

その2:セロトニン

安心ホルモン」とも呼ばれるセロトニン。その二つ名の通り、これが多く分泌されると安心感が生まれ、リラックスした状態になると言われています。

逆に不足すると不安や緊張が高まり、リスクを回避しようとして行動が慎重になったり、他人に同調したりする行動をとります。いじめに同調してしまうのは、自分も巻き込まれるかもしれないという気持ちからセロトニンの分泌が減少するからかもしれません。

その3:ドーパミン

脳内麻薬」という危ない別名を持つドーパミン

基本的には自分の欲求が満たされた時に分泌されるものですが、なんといじめをしている間にもこのドーパミンが分泌されるらしいのです。

いじめている側の感覚は「正義」

そもそも、いじめというのは「間違っているお前を正してやる」という正義感から湧くことがほとんどです。

その理屈からいうと、「間違っている」お前に制裁を加えた自分は「正しいことをした」のです。正義という認識のもとで制裁を行ったとき、ドーパミンが分泌されて快感を得られるそうです。

また、ドーパミンは所属集団から認められたときも分泌されるらしいです。ですから、一度「あいつが悪いんだから、お前がしたことは悪くない」と1度認められてしまうと、それに快感を覚えてしまい、いじめがエスカレートしてしまうのです。

なくなるはずがないと割り切る

もし、本当に脳機能としていじめのメカニズムが我々人間の脳に組み込まれているとするのならば、私たちはいじめという行為を止めることは不可能であると、諦めなければならないのかもしれません。

ですから、お子さんが通う学校で、いじめの認知件数がだったらだと思った方がいいです。それはいじめを見落としているか隠蔽しているかのどちらかです。

「いじめがある」という事実に変に怯えてしまいがちなわたしたちですが、寝ることや食べることと同じ本能であるのならば、起こってしまうのはある意味仕方のないこと。そう受け入れながらも、いじめを起こさないようにする努力をし続けることが、きっと大切なのだと思います。