文章術の本を読んで、小学校国語の「書く」学習が案外バカにならないと思った話。

最近、僕はAmazonのKindle Paperwhiteという電子書籍リーダーを買いました。

Amazonのプライム会員に登録しているので、Kindleで読める電子書籍の一部を無料で読むことができることを知り、いろいろな本を試し読みしています。便利な時代になったもんだなあ。

試し読みした本の中に、「伝わる・揺さぶる! 文章を書く」(PHP文庫)という、文章術について述べられた本があります。

著者の山田ズーニーさんは長年、高校生の小論文指導に携わり、現在は糸井重里氏のサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』で「大人のための小論文教室」を連載している、文章の達人。実践例をもとにしながら、相手に伝わる、説得できる文章の書き方がわかりやすくまとめられています。

僕もこうやってブログを書くたびに「もっとわかりやすく書けないものか…!」と四苦八苦しているので、大変参考になりました。同じような悩みを持っている方にはおすすめです。

さて、この本を読んでいるときに、ふとある既視感を感じました。初めて読む本なのに、この感覚は一体どこから来るのだろう。

良い文章の書き方は、国語の授業ですでに学習している

その既視感の正体は、学校での国語教育でした。

例えば、山田さんはわかりやすい文章を書くために大切なことの1つとして、次のようなことを述べています。

 主語をはっきりさせて書く、そして主語はできるだけ人間にし、あいまいな受け身文を書かないようにするだけで、文章は見違える。

現代のわたしたちは、主語を抜いたままでのやりとりが進むことがよくありますよね。その傾向は、メールやLINEで顕著に現れます。述語だけでも意味は伝わるといえば伝わりますが、きちんと主語を書くことによってわかりやすい文にすることができるのですね。

ところで、この主語と述語については、何と小学校低学年の国語で学習することになっており、学習指導要領の内容にも「文の中における主語と述語との関係に気付くこと。」と明記されています。実はすでにわたしたちは習っていたのです。

他にも、本書の自薦状の実践例では、それを書かせる相手(大学や会社など)が何を知りたいのか、そのねらいに即した志望理由を書くためのポイントが説明されていますが、相手や目的を意識することの重要性も、学習指導要領解説で

相手や目的を意識してとは,題材を設定したり情報を収集したりする際に,不特定多数の人に対して文章を書くのか,特定の人に対して文章を書くのか,何のために書くのか,読み手はどのようなことを知りたいのかなど,文章を書く相手や目的を念頭に置くことである。相手や目的を意識することは,「題材の設定,情報の収集,内容の検討」の過程だけでなく,「考えの形成,記述」,「推敲」 などの過程においても重要なものとなる。

と強調されています。プロが教えるテクニックの多くは、小学校の国語に共通していたのです。

なぜ、習った記憶がない?

さて、ここまで読んでくださった多くの方は「え、そんなこと習ったっけ?」という気持ちになったことでしょう。

これだけ良い文章の書き方を学校で学習してきたはずなのに、なぜ私たちは習った記憶がないのでしょうか。

国語の授業は「読む」ことに隔たりがち

みなさん、「小学校での国語の授業といえば?」と聞かれたら、真っ先にどんな授業をイメージされますか?

おそらく、教科書に書いてある物語や説明文を読み取る授業をイメージした方がほとんどではないでしょうか。そして時々、漢字練習。

小学校の国語は、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の3領域と言語に関わる事項で構成されています。そして、単元の構成上、「読むこと」に関わる授業の時数が他の領域と比べて多いです。

また、これが中学校・高校になると受験も絡んできますよね。試験で出される問題も、漢字とかよりは文章の読解の方が得点のウェイトを占めることがほとんどです。だから、たとえ指導計画の時数を超えたとしても、読み取りの指導をおろそかにすることは何が何でも避けなければなりません。

さて、そうなるとしわ寄せが来るのは他の領域です。「読むこと」の指導によって圧迫された「書くこと」の指導はどうなるのでしょうか。

よくあるのは、何かの行事の作文で済ませたり、宿題としてお話を書かせたりするパターン。授業できちんと書き方のポイントを押さえずに書かせるわけですから、それだけで文章力が向上することはまずないでしょう。

大人になって必要とされる能力は何かを考える

いかがでしたか。小学校での書き方の指導って、責任重大ですよね。

人生をより豊かにしていくためには、高い読解力も必要でしょうが、大人になって社会で生きていくときに最も必要な力って、本当にそれなのでしょうか。

相手の意図を意識しながら話を聞いたり、筋道立てて自分の考えを根拠と共に話したりする方がよほど大事だと思うのは、決して僕だけではないはず。

良い点を取るとか、そういう短期的な目線だけでなく、遠い未来を見据えて本当に大事なことは何かを考えながら、子どもたちの力を伸ばしてあげたいですね。